2023/05/12

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風が造る風景



自然の「変化」と「リズム」を抽出しようとする NATURE の作品づくりにとって、風は大切な「造化の源」になっています。

海の上を吹く風は波を造り出します。

風によって海面に凹凸が出来、それが波になります。波打ち際に風がなくても、広い海のどこかでは必ず風が吹いていて、それが波になって陸に伝わってくるのです。

風は空気の移動によって生まれます。温められた空気は上昇し、そこに冷たい空気が流れ込んで風が生まれます。

太陽が昇り地表の温度が上がると、冷たい海から暖かい陸に向かって「海風」が吹き、日が沈んで地表の温度が下がると、冷えた陸から暖かい海に向かって「陸風」が吹きます。

海辺で一日中撮影していると、風が凪いで風向きが入れ替わるのを感じることがあります。知識では知っていても、海風と陸風の循環を肌で感じる機会は、NATUREを収録をしていなければ、体験できなかったと思います。

風は季節によっても入れ替わります。夏の季節風は、熱せられたユーラシア大陸に向かって太平洋の潤湿な空気を運び、日本列島に「梅雨」をもたらします。

冬の季節風は、それとは逆に、ユーラシア大陸から「寒気」を日本列島に運びます。この風は、山脈に当たって日本海側に大雪を降らせ、太平洋側に乾いた冷たい風を吹き下ろします。

風によるこの四季の気候変化が、南北に長く高低差のある日本の国土に、変化に富んだ神秘的で美しい自然風景を造り出すのです

先人たちは、循環する季節の中で新しい風景を運んでくる風に、様々な名前をつけました。

春一番、花風、薫風、南風(はえ)、盆東風、野分、金風、木枯らし、おろし、空っ風などは、よく知られていますが、風の呼び名は、日本各地で2000もあると言われています。

風につけられた様々な呼び名は、先人たちが自然を畏敬し、自然に寄り添って生きたきた証なのかもしれません。

NATUREの収録でも、風を読むことが大切な仕事になります。風が造り出す変化とリズムがなければ、どんなに美しい風景でも静止画になってしまいます。最近では NATUREのロケに出る時、真っ先に風の予報を見るようになりました。

風は、地形の影響を受け、入江や海峡、岬、山の尾根や谷筋で強く吹きます。それ以外の場所でも、周囲の地形をよく見ていると、風には通り道があることがわかります。

海の波、雲の移動、樹々のゆらめき、水面の漣も、自然の変化とリズムの大半は、風が造り出していると言っても過言ではありません。

NATUREのロケで「生命のリズム」を収録するための秘訣のひとつは、この「風の道」を探すことだと思っています。

自然が造り出す風は、海と陸、地上と天空をひとつに結び、空気を循環させます。その様子は、まるで地球生命体が呼吸しているかのようです。

断熱材とエアコンに囲まれた人工的な環境の中で、人の空気を読むのに疲れた時は、NATUREの「風の四季」を見て、自然の風を思い出してください。

心に吹く一陣の風が、澱んだ風景に「生命のリズム」を運んでくれますように。


復元版「風の四季」
https://nature-japan.com/kazenoshiki/

Restored Version「 Seasons of Wind 」
https://nature-japan.com/en/seasons-of-wind/

2 Comments

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この美しさはどう表現したらいいでしょうか?
自然はその色を表現しています
青い海と緑の山々に涼しい風が吹く
彼は詩を描いていて、心が幸せです

ナム

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NATUREは、映像の葛飾北斎画━地球が消えても残るもの

風は、見えない。

心にわだかまり、苦悩、悶々とした情念を抱いていても、
一陣の清風に遭うと、胸の中を貫いて、闇を吹き飛ばし、
清新な気分を与え、甦らせてくれる。

風は、いのちを運ぶ。

風立ちぬ、根源から創造の息吹が沸き起こり、かつてない
まったく新たな挑戦と現実が人生に立ち現れる。
いのちの源から吹いてくる風がある。

宇宙船では、人工で風を起こさねば、二酸化炭素が鼻下に
溜り、窒息して死ぬという。風が、吹き飛ばし、呼吸さえ
可能にしてくれている恩恵を、私たちは忘れている。

風は美しい。

AIで、甦った風の映像、飛び散る桜の花びら、揺らぐ
樹々、流れる草花を通して、見えない風の美しさを知る。
AIを生かすのは、最終的に、人間の想像力である。

「事実のリアル」か、「真実のリアル」か━。

事実は必ずしも真実ではない。想像力を駆使して創造する
フィクションの中に、真実を表現できる。それが、芸術の
醍醐味。夢こそ真実であり、この世の現実が偽りなのかも。

風の作品を観て、そう思った。地球も、必ず消滅する。
美しい自然も、やがて終わる日がくる。後に何が残るのか。
心に刻まれた思い出、縁ある人との愛と友情の深い交歓━。

それしか残らない。残るものは必ず心、空(くう)にある。
愛おしい交歓には、いつも包むように美しい自然があった。
NATUREは、魂の記憶に刻まれ思い出させる映像の葛飾北斎。


石部 顯

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